2025年１月５日から放送しているNHK大河ドラマ「べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～」（つたじゅうえいがのゆめばなし）。
出版人「蔦屋重三郎」（つたやじゅうざぶろう）の波乱万丈な人生を描いているこのドラマ。舞台となる江戸吉原といえば、花魁（おいらん）なくしては語れません。高度な教養と芸事を身につけた特別な存在だった彼女たちは、どのようにして芸を身につけていったのでしょうか。
今回は、彼女たちが一人前の花魁となるまでに通ってきた、厳しい稽古と教育の過程についてご紹介いたします。

18世紀半ば、すっかり平和な世となった江戸時代。
吉原の貧しい家庭に生まれた蔦屋重三郎は、幼くして引手茶屋の養子となります。
引き手茶屋の仕事は、吉原や遊郭内で遊客を遊女屋へ案内することでした。

やがて彼は吉原大門前に書店を構え、洒落本や黄表紙などの出版で「江戸のメディア王」と呼ばれるまでになります。その才能は本だけに留まらず、喜多川歌麿や葛飾北斎、東洲斎写楽といった浮世絵師たちの名作を世に送り出しました。

やがて、時代が移り変わり、寛政の改革による厳しい弾圧が始まります。それでも重三郎は信念を貫き、江戸の文化とエンターテインメントを守り続けるのでした。

花魁を目指す少女たちは、幼い頃から遊郭に入り、まずは「禿（かむろ）」と呼ばれる見習いとしての生活を始めます。
この時期、彼女たちは先輩花魁の身の回りのお世話をしながら、遊郭での礼儀作法や基本的な所作を学びます。例えば、着物の着付けや髪型の整え方、客人へのお辞儀の仕方など、日常生活の中で必要なスキルを身につけていきます。

そして、見習い期間を経ると、芸事や教養の習得が始まります。
花魁は、客人を魅了するために多彩な才能が求められました。三味線や琴の演奏、舞踊、茶道、華道など、多岐にわたる芸事を習得します。
特に三味線の演奏は、花魁としてのステータスを示す重要なものでした。また、文学や書道、和歌の詠み方など、知識と教養を深める勉強も欠かせませんでした。

彼女たちにとって、実際の宴席も重要な学びの場。見習いたちは、先輩花魁に同行し、お客様との接し方や会話術、気配りの方法などを直接学びました。
この実地訓練を通じて、お客様の好みや雰囲気を察知し、適切な対応をするスキルが磨かれていきます。まさに、現場でしか得られない貴重な経験が積み重ねられるのです。

花魁道中といえば、華やかな衣装をまとった花魁が、ゆったりとした足取りで歩く「八文字歩き」が思い浮かびます。花魁に詳しくなくとも、その独特の所作を思い出し、「ああ！」と膝を打つ方も多いのではないでしょうか。

この「八文字歩き」は、ただの歩き方ではなく、花魁としての品格と風格を示す重要な所作でした。高さのある三枚歯の高下駄を履きながら、体を揺らさず、八の字を描くように優雅に歩く――これを身につけるには、並々ならぬ鍛錬が必要でした。

禿（かむろ）時代から、少女たちは着物の扱い方や所作を学びますが、花魁になるためには、この八文字歩きを完璧に習得する必要がありました。歩く速度、足の運び、扇の持ち方、そして表情までもが計算され尽くされていたのです。
まるで舞台の上の役者のように、一歩ごとに視線を集め、圧倒的な存在感を放つ。それこそが花魁道中の真髄でした。

技術や知識はもちろんですが、花魁は精神面も重要視されていました。
お客様に対する思いやりや気遣いがあり、美しさと教養を兼ね備えた女性こそが、真の花魁へと成長していくのです。

このように、花魁になるまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。
しかし、その厳しい稽古と努力の積み重ねが、彼女たちを唯一無二の存在へと導いたのです。