2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう』。
吉原の世界を決して楽しい世界ではなく、美しくも残酷で切ない世界として描き切ることで、非常に多くのファンを得ています。
今回は、べらぼうの主人公、蔦屋重三郎の生きていた当時の吉原の風俗産業を深掘りしていきます！

吉原遊廓が誕生したのは、江戸初期のこと。幕府の公認のもと、1618年（元和4年）に誕生しました。遊女たちは限られた区域の中で接客し、そこは“公の遊び場”として機能していました。
けれども吉原は、ただの売春地ではありませんでした。
吉原のトップを張るような遊女たちには、和歌や三味線、お茶や書道など、教養や芸事が求められました。
お客さまとの会話には、文学の素養や機転が必要とされる。お客様はただ「可愛い女」ではなく、「尊敬に値する女」と遊ぶことに大金をはたいたのです。

また、遊女たちが必死に勉学にいそしんだ背景には、遊女たちが「年季奉公」という形で雇われていることも影響していたと言われています。
生活や健康管理（とくに性病予防）も含めて制度の中で生きていた彼女たちは、自由を求めて必死に努力したのでしょう。

吉原文化のにおいを、書物として伝えたのが、ドラマ『べらぼう』の主人公・蔦屋重三郎でした。
彼は、黄表紙（きびょうし）や洒落本（しゃれぼん）、春画といった出版物を通じて、江戸の「艶っぽい文化」を、文字と絵で見事に描き出したのです。

たとえば、彼は吉原を盛り上げるために洒落本を出版しましたが、この中には、吉原での会話や遊びの所作が、ユーモラスに、時に皮肉をこめて描かれました。
春画もまた、現代の私たちは、恥ずかしくなるような大人の絵を想像してしまいますが、当時の人たちは、エロだけではなく、ユーモアや風刺が込められた絵として楽しんでいました。
たとえば、おかしなシチュエーションについ笑ってしまう作品や、美しい構図の芸術性の高い作品など。当時の庶民にとって春画は、“ちょっと知的なお楽しみ”として、親しまれていたのです。

また、ドラマ『べらぼう』の主人公・蔦屋重三郎が開いた蔦屋は、吉原の案内図や、おすすめの遊女を紹介するガイドブックまで出版していたとか。
現代でいうなら、恋愛ゲーム攻略本と風俗情報誌、観光ガイドなどがミックスされたような本ですね。

蔦屋重三郎は、江戸の町人文化の表舞台と、ミステリアスな吉原の世界、どちらにも通じた稀有な人物でした。
そして江戸の人びとは、蔦屋重三郎のような人間が発信する文化に触れ、知性と欲望、理性と感性のバランスをとって生きていたのです。
『べらぼう』が描く江戸は、まさにそうした人間くさい魅力にあふれた時代。その矛盾と混沌こそが、文化が生まれる原点なのではないでしょうか。

次回は、江戸の“性ビジネス”は、どれほど稼げたか？をテーマにお送りしたいと思います！